ラヴェルの鏡を聴きながら午前7時、いつもと同じ、横たわる冬の朝だ。あ、今韻を踏みましたね?見てください…

脳内では白魚のゲシュタルト崩壊が起こっている。シラウオ、なんて美しい響き。シラウオが何なのか、厳密にはわかっていない私の頭蓋骨にはわたあめが詰まっている。だが、大丈夫。何も問題ない。

誰が為にうさぎは踊る?踊ったうさぎの行く先はあの水晶丘のてっぺんだ。丘は歩くと音が鳴り、星が散るらしい。頂上には穴が空いており、そこから白魚のいる海へ流れ着く、深い深い水たまりへと飛び込む。うさぎは、くまからそう伝えられていた。
くまの貪る苹果を見つめながら、うさぎは何故という問いを聞けずにいた。いや、聞いてはいけなかったのだ。苹果は消えない苹果であり、齧ったところから直ぐに再生がはじまる。これが世界の真実なのだなあと、うさぎは思った。

水晶丘に来るのは初めてだったが、小さい頃に聞いたとおりの、まさに水晶であった。透明なゼリー様の細かな粒は、何らかの燈火をたずさえながら、一つ一つが懸命に光っていた。この素晴らしい宝石の山を踏んで歩かねばならないと思うと、うさぎは今にも泣き出しそうだった。
涙をのんで、うさぎは一歩を踏み出した。星が散り、粒たちが泣いた。音というのは、この踏まれたときの鳴き声だったのだ。うさぎはとうとう泣き出してしまった。ぽろぽろと優しい涙が、優しい眼から溢れる。溢れた涙が頬の上で舞い、水晶丘に落ちた。
すると、水晶たちは一斉に呼吸を整え、散り散りになって海へと溶けだした。脚元が崩れ落ちていく。暖かな残り火が、脚から頭までをたちまちに包んでいった。ああ、ここが帰る場所だったんだね、とうさぎは喜んで、水晶と海とひとつになっていった。