悪夢

幼い頃から、現実の生き写しかと言うくらい鮮明な夢を見てきた。起きた時に惜しい気持ちになる…例えば、好きな人物に逢ったり、空を飛ぶような浪漫めいた夢…それは、僅かな割合で私を楽しませた。だが、見る夢の殆どは、何者かに追われる夢から学校や勤務先への遅刻、殺人まで、あらゆる苦悩や残忍さを押し込めたものだった。
聞くところによると、多くの人は色彩の無い夢を見るようだが、私の場合は全く違う。現実には起こり得ないシチュエーションでありながらも、現実さながらの感覚をありありと再現しているのだ。五感は常に研ぎ澄まされている…極彩色で細やかな像。ダイエット中に渇望している食物の匂いや味。聴いたことのない言語やメロディー。繊維の触り心地。見る夢全てがおとぎ話のように甘美なものだったらどれだけ良かっただろう。

起きた時には、どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのか、という、理不尽さに対しての怒りや悲しみが襲ってくるものだった。夢の中でつらい目にあっているのだから、現実ではいい思いをさせてくれたっていいじゃないか、と思いながら、学校やバイトの支度をよくした覚えがある。
しかし、とうとう理不尽ではないような気がしてきた。私は、従来からの悪癖により、様々な罪を犯してきたので、これは当然のことなのだ、と。


悪夢は、日常の些細な欠点を目敏くつまみ出して、ストックしておいた切り札を突き付けるのだ…ある時は何枚も…
この間はダンボールのゴミを出しそびれたのだが、そのせいで散々に怒られる夢を見た。今夜もまた悪夢に殺されるのだろうか。そろそろ安らかに眠らせて欲しい。